ショート
□原因不明だった感情論
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そいつは、変な女だった。
品の良さそうな着物と、時折差していたかんざしは綺麗な髪によく映えていた。
纏う気配が空気のように薄くて、薄弱で、第一印象は水を沢山混ぜ込んだ絵の具のようだと思った。
その儚さに、僕は小動物をいたぶりたくなるような、あの妙な衝動を覚えた。
だから、だから僕は。
だから僕は、何度もあの女を殺そうとした。
だけど何度もなんどもなんどもなんども何度やっても、失敗だった。
何でだろう、どうしてだろう。
生まれて初めてだったかもしれない。
“惑った”。
困惑した。
何かに対して、理澄に任せるのではなく、他の誰でもなく、この僕自身が迷った。
ただひたすら強さのみを抱した僕が、迷って、悩んで、その感情が邪魔で仕方がなかった。
少し、弱くなった気がした。
だけど僕の大好きな遊び相手が言うには、「八つ当たりでもするかのよう」に強かったり、「何か気に入らないものでもみたかのよう」に機嫌が悪かったりだそうで、「お前何かあったのか?」とか聞かれた。
「…ぎゃは、別に何にもないぜぇ?
なあにぃ、零っちってば、僕のこと気になっちゃうのおおおおお?」
いやーん、零っちついに発情期到来!と笑う僕から一歩引いて、まじまじと僕を眺める零っち。
…いや、むしろ見ているのは僕の背中だ。
何となく、居心地がわるくてわざと零っちとの距離をつめると、零っちが顔をしかめた。
「近ぇよ…もうちょい離れろ」
「そんな冷たいこと言ってんなよー!僕と零っちの仲じゃーん?ぎゃはは!」
「つうかなんだ?その背中にしょってるの…俺が見た限りじゃあ人間の女なんだけど」
「んー、まあ。」
「しかも怪我してね?」
「うん、止血したけど。」
「んで何でお前はわざわざ拘束衣を引きちぎってまで、そいつを背負ってるんだ?」
「別に…手が空いたから背負ってるだけだし?」
「…ふうん」
「何だよ零っち?」
「いや、別にお前がどうこうしようが、はっきり言ってどうでもいいけどさ。そいつ、どうするつもりだ?」
「…つれて帰る」
「お前んちに?」
「それ以外に場所ないし」
「そこまでしてつれて帰りたいのか…?」
きょとんと首をかしげる零っちに、無言で返すしかなかった。
僕だって、まさか時宮を担いで帰宅する日が来るとは思っても居なかった。
だけど、≪一喰い≫を振り下ろそうとした瞬間、腕が急に動かしにくくなった。
訳が分からなくて帰ろうとしても、倒れたままのこいつを見たらいつのまにかこうなってた。
今一番訳が分からないのは、それこそ僕自身だった。
原因不明だった感情論
(…早くかえろ、じゃーねえ零っちー)
(ん?ああ…、じゃあな)
―――――――
やけに思春期な出夢くんになってしまったorz